気温0〜30℃の壁:日本の大半が”夏の暑さ”より”冬の寒さ”で脱落する

気温0〜30℃の壁:日本の大半が”夏の暑さ”より”冬の寒さ”で脱落する

これからの日本で生活していくには、気温と降水量が重要な指標となる。この指標は、これまでの大都市一極集中に一石を投じることになり、不動産価格にも大きな影響を与えるだろう。

国土数値情報「平年値メッシュ」(2022年度版)の月別最高・最低気温データから、年間を通じて0〜30℃のレンジに収まる1kmメッシュを含む市町村を抽出した。全国37万メッシュのうち該当したのはわずか9,471メッシュ、311市町村のみ。抽出条件を振り返ると、この結果には一つの明確な傾向が見えてくる—該当市町村の年最高気温は軒並み28〜29.8℃と、30℃のボーダーぎりぎりに集中している。つまり今回の条件で日本の大半が脱落した主因は「夏が暑すぎる」ことではなく、「冬が0℃を下回る」ことだった。日本の夏は場所を選ばず暑いが、冬の寒さこそが地域差を生む決定的な要因だということが、このデータから浮かび上がる。

赤色が気温0〜30℃の範囲に収まらない夏熱く冬寒いゾーンで、青色が気温0〜30℃に収まるコンフォート・ゾーンになる。

年間気温0〜30℃レンジ該当エリア

冬は寒くてもできれば雪が少なく、夏は30℃程度であればかなり快適に過ごせると思いコンフォートゾーンに位置付けた。人によって感じ方はあるだろうが私個人の見解で進めていく。

北海道

該当メッシュなし。

東北(該当5市町村 / 該当メッシュ計79)

都道府県市町村該当メッシュ数最高気温(℃)最低気温(℃)
宮城県石巻市5026.30.6
山形県酒田市1028.80.1
山形県鶴岡市928.20.3
福島県いわき市728.00.0
秋田県男鹿市326.40.1

関東(該当53市町村 / 該当メッシュ計922)

都道府県市町村該当メッシュ数最高気温(℃)最低気温(℃)
茨城県神栖市10229.41.2
東京都大島町8828.93.1
千葉県勝浦市8729.51.4
千葉県銚子市8229.31.6
千葉県旭市6629.60.7
千葉県いすみ市5529.61.8
茨城県鹿嶋市4529.40.5
千葉県南房総市3829.81.5
千葉県鴨川市3529.71.0
千葉県富津市2929.60.9

(他 43 市町村)

中部(該当46市町村 / 該当メッシュ計1122)

都道府県市町村該当メッシュ数最高気温(℃)最低気温(℃)
静岡県伊豆市18428.81.0
新潟県佐渡市12329.00.2
静岡県伊東市9928.72.5
静岡県下田市8828.93.1
静岡県河津町6628.22.2
静岡県松崎町6228.31.6
静岡県東伊豆町5028.22.3
静岡県西伊豆町5028.71.1
静岡県南伊豆町4829.12.7
福井県越前町4629.40.7

(他 36 市町村)

近畿(該当42市町村 / 該当メッシュ計974)

都道府県市町村該当メッシュ数最高気温(℃)最低気温(℃)
三重県尾鷲市9629.31.5
和歌山県串本町7129.72.7
京都府京丹後市6929.30.8
兵庫県香美町6829.60.8
和歌山県すさみ町6629.30.9
三重県熊野市6229.21.3
和歌山県古座川町6029.71.2
三重県紀北町4229.70.5
兵庫県南あわじ市4229.21.2
京都府伊根町4129.41.3

(他 32 市町村)

中国(該当31市町村 / 該当メッシュ計902)

都道府県市町村該当メッシュ数最高気温(℃)最低気温(℃)
山口県下関市15729.61.0
山口県萩市11929.61.0
島根県松江市7829.60.9
島根県出雲市7229.40.8
山口県長門市6929.60.8
鳥取県大山町6929.61.2
広島県呉市5929.61.4
島根県浜田市4829.70.5
鳥取県琴浦町4729.70.8
山口県阿武町2829.50.8

(他 21 市町村)

四国(該当45市町村 / 該当メッシュ計863)

都道府県市町村該当メッシュ数最高気温(℃)最低気温(℃)
高知県土佐清水市12629.22.6
高知県室戸市12128.82.1
愛媛県伊方町7329.14.5
高知県大月町4829.63.8
愛媛県大洲市4229.20.9
愛媛県愛南町4229.41.4
愛媛県伊予市3829.60.5
高知県宿毛市3729.62.4
高知県三原村3429.50.6
愛媛県松山市2629.81.0

(他 35 市町村)

九州・沖縄(該当89市町村 / 該当メッシュ計3177)

都道府県市町村該当メッシュ数最高気温(℃)最低気温(℃)
長崎県対馬市65828.72.3
長崎県平戸市21229.24.7
長崎県佐世保市13829.42.6
大分県佐伯市13229.41.6
長崎県壱岐市12629.83.4
大分県国東市11829.60.7
宮崎県日南市11329.41.3
長崎県西海市9229.53.4
佐賀県唐津市7929.82.2
宮崎県延岡市7929.50.9

(他 79 市町村)

全国合計:311市町村、該当メッシュ9,471

なぜこのエリアが該当するのか—海流という共通項

該当市町村の顔ぶれを見渡すと、共通するのは海流の影響を強く受ける沿岸部であることだ。対馬市・壱岐市・平戸市は対馬海流、伊豆半島・紀伊半島・宮崎・鹿児島は黒潮の通り道にあたる。これらの暖流は冬でも海水温を大きく下げないため、沿岸部の気温が0℃を下回りにくくなる。一方で夏は海からの風が気温の上がりすぎを抑えるため、30℃を超えにくい。つまり「海に囲まれ、かつ暖流に洗われる」ことが、このコンフォートゾーンの必要条件になっていると言えそうだ。

北海道・東北北部が軒並み対象外なのは、この暖流の恩恵が及ばず、冬の気温が0℃を大きく下回るため。逆に内陸部(長野・岐阜山間部など)が対象外なのは、海洋の緩衝効果がなく、寒暖差がそのまま気温に表れるためだと考えられる。

年間降水量分布図

該当エリアの年間降水量を集計すると、平均2,171mm、中央値2,052mmとなった。全国の非該当エリア(平均2,440mm、中央値1,654mm)と比較すると、該当エリアは「年間降水量2,000mm以上」に該当する割合が54.2%と、非該当エリアの32.1%より明確に高い。海流がもたらす暖かく湿った空気が、気温の安定と降水量の多さを同時にもたらしている可能性がある。

ただし、この関係は絶対的なものではない。該当エリアのうち45.8%(4,334メッシュ)は年間降水量2,000mm未満であり、例外は決して少なくない。

CornflowerBlue(濃いスカイブルー)に年間気温0〜30℃レンジ該当エリア(ネイビー)が重なるとCornflowerBlueの色も濃くなる。ここで分かったのは、年間気温0〜30℃レンジ該当エリアは年間降水量も多いエリアであるということだ。

例外1:降水量が少ないのに該当する市町村—瀬戸内海式気候

該当エリアの中で降水量が特に少ない市町村を並べると、明確な地理的パターンが浮かび上がる。

都道府県市町村該当メッシュ数年間降水量最高気温(℃)最低気温(℃)
愛媛県上島町11,176mm29.92.8
広島県尾道市41,187mm29.90.3
香川県土庄町11,215mm29.90.3
香川県小豆島町51,224mm29.80.2
広島県大崎上島町21,270mm29.90.8
兵庫県淡路市181,270mm29.80.7
大阪府岬町31,294mm29.81.6
宮城県石巻市501,299mm26.30.6
大阪府阪南市31,308mm29.71.3
兵庫県神戸市西区11,310mm30.00.2

石巻市を除くと、上位のほぼ全てが瀬戸内海周辺(尾道・小豆島・淡路島・大阪湾岸)に集中している。これは気候学でよく知られた「瀬戸内海式気候」そのものだ。中国山地と四国山地に囲まれ、季節風が山を越える際に水分を落とすため、瀬戸内海沿岸は年間を通じて雨が少ない。同時に、瀬戸内海という閉じた内海が海洋性気候の緩衝効果をもたらし、冬の気温も0℃近くで踏みとどまっている。つまり瀬戸内エリアは「暖流ではなく地形」によって、少雨でありながら気温のコンフォートゾーンに入る、独自のメカニズムを持つ地域だと言える。

例外2:降水量が最も多い該当市町村—黒潮と台風の通り道

逆に、該当エリアの中で降水量が最も多い市町村は以下の通り。

都道府県市町村該当メッシュ数年間降水量最高気温(℃)最低気温(℃)
高知県東洋町73,567mm29.50.2
和歌山県新宮市263,555mm29.21.1
静岡県東伊豆町503,459mm28.22.3
和歌山県那智勝浦町273,441mm29.71.5
三重県紀宝町223,369mm29.61.2
三重県尾鷲市963,265mm29.31.5
宮崎県日南市1133,249mm29.41.3
三重県御浜町143,230mm29.60.6
鹿児島県錦江町413,178mm29.30.8
鹿児島県肝付町603,171mm29.00.8

紀伊半島南部(尾鷲・新宮・那智勝浦)、伊豆半島東部、宮崎・鹿児島南部と、いずれも黒潮が直接ぶつかる太平洋沿岸で、かつ台風の通り道にあたる地域だ。黒潮からの水蒸気供給と、山地への地形性降雨が重なり、日本有数の多雨地帯を形成している。同じ「気温のコンフォートゾーン」でも、瀬戸内海式気候の乾燥地帯と、黒潮直撃の多雨地帯という、成因の異なる2つのタイプが存在することがこのデータから見えてくる。

まとめ

年間を通じて気温が0〜30℃に収まる市町村は、日本全国でわずか311、全メッシュの2.5%程度に過ぎなかった。この結果を分けたのは「夏の暑さ」ではなく「冬の寒さ」であり、対馬海流・黒潮という暖流の恩恵を受ける沿岸部が軒並み該当する形になった。

降水量との関係では、該当エリアの過半数(54.2%)が年間2,000mm以上の多雨地帯と重なる一方、瀬戸内海式気候という地形要因による例外も無視できない規模で存在した。気温だけでなく降水量まで含めて見ることで、「暖流由来の温暖湿潤タイプ」と「地形由来の温暖少雨タイプ」という、住環境として性格の異なる2つのコンフォートゾーンが日本には存在することが分かった。


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