高市首相欠席の真因はG7軽視ではなく、エネルギー外交の難しさにあったのではないか

高市首相欠席の真因はG7軽視ではなく、エネルギー外交の難しさにあったのではないか

高市早苗首相が10月2日夜のG7首脳オンライン会合を欠席したことへの批判が、1か月近くたった今も収まりません。「G7軽視だ」「国益を損なった」という声が大きい一方で、私はこの欠席を、単なる軽視や失態という枠だけでは説明しきれないと考えています。この記事では、確認できる事実と私自身の見立てを分けて整理します。

私がこの記事を書こうと思ったのは、「なぜ30分のオンライン会合の出欠が、ここまで大きな問題になるのか」という疑問を持ったからです。状況が流動的で、首脳の一言が重くなる場面では、あえて出席しないほうが無難だと判断した可能性があります。国会の質疑でも、時間の多くは、出欠の経緯や説明の食い違いに使われました。もちろん、首相の行動を問うことは国会の役割です。それでも、限られた時間を使うのなら、備蓄をどこまで放出するのか、燃料補助金をどうするのか、防衛装備の移転をどう進めるのかといった、国民の暮らしと安全に直結する中身の議論をしてほしい、というのが私の率直な思いです。

何が起きたのか|10月2日のG7オンライン首脳会合

まず事実関係です。会合は日本時間10月2日の午後9時半から約30分間、議長国フランスの呼びかけで開かれました。出席したのはトランプ米大統領を含む5か国の首脳で、欠席したのは高市首相と英国のバーナム首相の2人でした。日本からは遠藤和也外務審議官が代理で出席しています。

議題は、中東情勢の悪化を背景にした燃料価格の高騰、とりわけ軽油(ディーゼル)への対応です。会合後の共同声明で、G7は国際エネルギー機関(IEA)と連携し、今後4か月で軽油と原油あわせて1億バレルの備蓄を協調放出することを決めました。最初の20日間は軽油を重点的に放出するとされています。

ここで大事なのは、これが「サミット」ではなく30分のオンライン会合だった点です。

急に開かれた背景|ロシアではなく、中東と米国の「禁輸カード」

急遽の開催のきっかけについて、私は当初「トランプ大統領のロシアへの対応ではないか」と考えていました。しかし報道を確認すると、少し違う構図が見えてきます。

ロイター通信は、トランプ政権がフランスやドイツに対し、軽油の備蓄を放出しなければ米国産軽油の欧州向け輸出を禁止する可能性を伝えたと報じています。マクロン大統領がトランプ大統領と電話で話し、G7として協調する必要性を訴えた、というのが共同通信の伝える流れです。トランプ大統領は11月の中間選挙を前に、燃料価格の抑制を迫られていました。

つまりこの会合は、中東情勢で高止まりした燃料価格と、米国の強い圧力のもとで欧州が動くための場だったと言えます。ロシア制裁の足並みをそろえるための会合だった、という見方を裏づける報道は、私が調べた範囲では見つかりませんでした。

批判と説明の変遷

批判の中身も整理しておきます。東京新聞の社説は、2020年3月から17回開かれたG7首脳のテレビ会合で日本の首相が欠席したのは初めてだと指摘し、議長国や各国との信頼関係を損ないかねない失態だと断じました。公明党の岡本代表や野党各党も、首相がG7で存在感を示す責任を問うています。

さらに批判を強めたのが、欠席理由の説明が変わっていった点です。

  • 10月5日:首相はXで、議長国が当日直前に急遽設定したもので、代理出席が認められていたと説明
  • 10月16日:参院予算委員会で、開催時刻が直前まで分からず、回線接続の業者の手配が間に合わなかったと説明。あわせて「米国と欧州の間の問題だったので、代理出席でいいという話を受けた」と述べた
  • 10月27日:参院外交防衛委員会で、茂木外相が、会議は30分で発言は1回きりのため外務審議官の出席で十分と判断した、と説明

また首相は当日、会合の1時間半ほど前まで公邸で麻生副総裁ら党幹部と会食していました。首相は会食と欠席は関係ないと述べていますが、この点も批判の材料になっています。

私の見立て|「何を言うか」が最大のリスクだった可能性

ここからは、事実ではなく私の見立てです。

外交では、首脳が会議で発した言葉は重い意味を持ちます。特にエネルギー問題は、物価、運輸、農業、漁業、製造業と国内のあらゆる分野に直結します。状況が流動的な段階で、首脳が不用意に数字や方針を約束すれば、後で身動きが取れなくなります。

仮に首相が出席していれば、少なくとも次のような問いに、自らの言葉で向き合うことになったはずです。

  • 備蓄をどこまで放出するのか
  • 日本の燃料補助金政策を維持するのか
  • 対ロシア政策とエネルギーの安定供給をどう両立させるのか
  • 中東情勢が悪化した場合に、追加の負担を受け入れるのか

しかも相手には、中間選挙を控え、欧州に禁輸までちらつかせたトランプ大統領がいます。イラン情勢をめぐって米国の対応と少しでも距離のある発言をすれば、それ自体が外交問題になりかねません。「代理が出る」という形は、日本の立場を伝えつつ、首脳としての言質は与えないための現実的な選択だった、というのが私の考えです。

もう一点、私はウクライナやドイツからパトリオットミサイルの譲渡支援を求められていることも、首相が慎重になった背景ではないかと考えました。

関連する報道があります。共同通信によると、ドイツのメルツ首相は10月28日に東京で、ウクライナの防空支援をもう少し強化できないか改めて検討するよう高市首相に依頼したと明らかにしました。メルツ氏はパトリオットを念頭に、欧米各国の在庫が底を突きつつあると説明しています。ウクライナも日本に対し、迎撃用ミサイルを含む防空兵器の供与を繰り返し求めてきたと同じ報道は伝えています。7月には、ウクライナ側が日本のパトリオットの国内生産への支援に関心を示したことも、共同通信のインタビューで語られています。

ただし、この要請はG7のオンライン会合(10月2日)より後のことです。ですからこの報道だけでは、欠席の理由がパトリオットだったとは言えません。言えるのは、パトリオットが日独、日ウクライナの間で重い課題になっていたこと、そして「改めて」という言葉から、メルツ氏の依頼が初めてではなかった可能性がうかがえることまでです。欠席との結びつきは、あくまで私の推測だと明記しておきます。

ドイツ側が以前から日本に目を向けていた、というのが私の考えです。理由は、パトリオットの生産体制にあります。ドイツでは、MBDAとレイセオンの合弁企業が旧型のPAC-2を生産しています。これに対し、最新型のPAC-3 MSEを米国以外で生産しているのは、報道を見る限り日本(三菱重工業)だけで、年間の生産数は約30発とされています。ドイツのピストリウス国防相は、PAC-3 MSEをドイツ国内で生産できるよう米国に働きかけていると、ミリタリー・タイムズが9月に報じました。最新型の生産経験を持つ日本は、ドイツにとって無視できない相手のはずです。一方、日本の制度は2026年4月に大きく変わりました。完成品の移転を救難や輸送などに限っていた「5類型」が撤廃され、殺傷能力のある武器も、防衛装備品・技術移転協定を結んだ国(17か国)に対しては、原則として移転が可能になっています。ドイツとは2017年にこの協定を結んでいます。米国向けのPAC-3は、2023年のルール改定を受けて2025年11月に引き渡しが完了しました。つまり、米国やドイツの在庫不足を補う形で日本が協力する道は、制度の上では開かれています。ただし、案件ごとの審査は残り、戦闘が行われている国への移転は原則として認められません。ウクライナへの直接供与はできないため、米国やドイツの在庫を補うことで、間接的に支える形になります。

もっとも、日本のPAC-3の生産は年間約30発にとどまり、中核部品のシーカーは米国からの供給に頼っています。自衛隊の在庫から出せば、日本自身の防衛にも響きます。何を、どれだけ、どの形で出せるのかは、慎重に詰める必要があります。ライセンス元の米国との調整も欠かせないはずです。水面下の調整が長引くのは自然だと私は考えます。

また、ウクライナや中東の紛争が収まれば、エネルギー市場の不安定さも和らぎます。軽油価格の問題と防空支援の問題は、別々の話ではなく、同じ国際情勢の表と裏だと私は見ています。首脳レベルでは、公表されない協議が重ねられているはずです。ただし、これも報道で確認できる事実ではなく、私の推測です。

「G7軽視」とは言い切れない理由

G7軽視という批判に対しては、反証になる事実もあります。高市首相は6月、フランス・エビアンで開かれたG7サミットに就任後初めて出席し、重要鉱物の共同備蓄や、アジアなどの石油備蓄強化の支援を提案する考えを出発前に表明していました。対面の首脳会議にはきちんと出て、日本の提案も持ち込んでいます。

今回の欠席は、G7という枠組みそのものへの無関心ではなく、30分のオンライン会合という場で、何を優先するかの判断だった、という読み方は成り立つと思います。

抹茶の投稿への批判|別の不満が流れ込んでいないか

欠席問題と並行して、11月1日に高市首相のXアカウントから投稿された抹茶の話題にも批判が集まりました。投稿には、鹿児島県の茶関連産業クラスター計画の資料が添えられていました。資料は8月28日の関係副大臣等会議(第6回)のもので、県内で茶の加工から販売までを一貫して行い、輸出を伸ばして生産者の所得向上と後継者確保につなげる、という内容です。

私が確認できた返信を読むと、批判の中身は大きく三つに分かれていました。

  • 「日本人を強く豊かにする気はないのか」という、政権の姿勢そのものへの批判
  • 「毎回こんな長文を誰が見るのか」という投稿の仕方への不満と、海外支援や移民政策への怒り
  • 外国産の「宇治茶」や、商標の無断使用に政府として対抗しないのか、という抹茶の中身に即した指摘

ここで私が感じるのは、抹茶の施策そのものへの批判というより、移民、海外支援、物価高、そしてG7欠席への不信感が、たまたまこの投稿に流れ込んでいるのではないか、ということです。鹿児島の資料にあるのは、輸出額の拡大、品質基準づくり、後継者の確保といった、農家を支える方向の施策です。それを理由に「国民を馬鹿にしている」と受け取るのは、読み違いだと思います。

ただし、三つ目の指摘は抹茶の内容に即しており、的外れとは言えません。抹茶には国際的な定義や品質基準がなく、中国やベトナムとの競争も激しくなっていると、資料自身が認めています。そうであれば、ブランドの保護を国としてどう進めるのか、という問いは正当です。投稿の批判が全部ばかげているわけではなく、中身を見て答えるべき部分と、別の不満が混ざった部分を分けて見る必要があります。

なお、この投稿に対しては「休日にこんな投稿をするなら、G7に出席すべきだった」という声も出ています。これは、あの夜に出席できたかどうかという出欠の可否を問う指摘ではありません。日付が違うから関係ない、と切り捨てるべき話でもありません。「首相には、もっと重要なことをやってほしい」という訴えだと私は受け取っています。その点で、的外れではありません。共同通信は、会合の時間帯に公表された公務はなかったと報じています。首相が日曜日に公邸でXの長文投稿を重ねてきたことも、すでに批判を受けています。批判の核心は、時間があったかどうかより、優先順位の置き方にあります。

ただし、外交の重要な仕事は、公表される日程には載らないことが多いものです。公表された公務がないことと、何もしていないことは同じではありません。ここは私の推測ですが、公表されない協議があったからこそ、あの夜は代理出席という形を選べたのかもしれません。とはいえ、国民が判断できるのは公表された事実だけです。優先順位をどう考えたのかは、首相側が説明で答えるべき部分です。

それでも残る疑問

一方で、批判側の指摘にも重い論点があります。私の見立てを自分で点検すると、次のような弱点があります。

第一に、代理出席でも日本の立場は表明されます。「首脳が言質を与えないため」という説明は、遠藤審議官が発言する以上、完全には成り立ちません。

第二に、首相自身や政府の説明は一貫していません。戦略的な判断だったのなら、なぜ「業者の手配が間に合わなかった」という説明が前面に出たのか。外務省が出席を止めたのかという質問にも、明確な答えは出ていません。

第三に、実利への影響を懸念する声があります。欧州連合が検討する電気自動車の優遇措置から日本車を除外しないよう、首相は10月28日の日独首脳会談の際にメルツ首相へ訴えたと報じられています。一部の識者は、G7を欠席したことがこうした交渉で不利に働くと指摘しています。

私は、高市首相は国益を考えて動いている数少ない政治家の一人だと感じています。だからこそ、欠席の真因が本当にエネルギー外交の難しさにあったのなら、国民に分かる言葉で説明してほしい。説明が二転三転することこそが、最大のダメージだと考えています。

終戦の玉音放送(宮内庁) https://www.kunaicho.go.jp/kunaicho/koho/taisenkankei/syusen/syusen.html


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