- 2026年7月7日
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「低リスク」ルートで実際に起きたクマ被害 ― 都民の森・鞘口峠事故の検証
はじめに2026年7月7日午前10時ごろ、東京都檜原村の「都民の森」内、鞘口峠からおよそ10……

H3ロケットの心臓部「LE-9」を作っているのは三菱重工業だが、そのターボポンプを一手に担っているのはIHIであり、さらに衛星を静止軌道に押し上げるアポジエンジンの分野では、日本製スラスタがすでに40年以上にわたって欧米の衛星メーカーに採用され続けている――こうした「完成品ではなく心臓部で世界シェアを握る」という日本メーカーの立ち位置は、意外と知られていない。本稿ではロケット射場適地選定シリーズの延長として、打ち上げの心臓部である「ロケットエンジン」そのものに焦点を当てる。世界のエンジンメーカーの顔ぶれ、日本メーカーが実際に世界市場でどのポジションにいるのか、そして燃焼の仕組みを、できるだけ一次情報に近い形で整理した。
打ち上げ機(ロケット本体)を手がける「輸送事業者」と、その心臓部である「エンジン・推進系」を専門に手がけるメーカーは、必ずしも同一企業ではない。代表的なプレイヤーを液体・固体・地域別に整理すると以下のようになる。
| 国・地域 | メーカー | 代表エンジン | 位置づけ |
|---|---|---|---|
| 米国 | SpaceX | Merlin, Raptor | 自社ロケット専用に垂直統合。量産・再使用に強み |
| 米国 | Blue Origin | BE-4 | ULA Vulcanにも外販する数少ない「エンジン売り」企業 |
| 米国 | Aerojet Rocketdyne(現L3Harris傘下) | RS-25, RL10 | 老舗。スペースシャトル以来の技術蓄積 |
| 米国 | Rocket Lab | Rutherford | 世界初の電動ポンプ式(バッテリー駆動)を実用化 |
| 米国 | Northrop Grumman | GEM, Castor | 固体燃料ロケットモーターの大手 |
| 米国 | Ursa Major Technologies | Hadley 等 | 新興のエンジン専業メーカー。他社への外販が主事業 |
| 欧州 | ArianeGroup | Vulcain 2.1, Vinci | Ariane 6用。仏独共同出資 |
| ロシア | NPO Energomash | RD-171, RD-180 | 高性能な二段燃焼サイクルの代表格。米国へも輸出実績あり |
| 中国 | 中国航天科技集団(CASC) | YF-100, YF-77 | 国家主導で急速に高性能化 |
| インド | ISRO | Vikas, CE-20 | 静止衛星打ち上げ用エンジンで実績を積む |
| 日本 | 三菱重工業(MHI)/JAXA | LE-7A, LE-9, LE-5B | H-IIA/H3の主エンジンを開発・製造 |
| 日本 | IHI/IHIエアロスペース | ターボポンプ、アポジエンジン、スラスタ | 完成エンジンより「心臓部」部品と衛星推進系に強み |
このほか、日本国内ではホンダの小型再使用ロケット実験や、将来宇宙輸送システム(ISC)のASCA計画、インターステラテクノロジズの「ZERO」(液化バイオメタン燃料)など、新興プレイヤーの動きも活発化している。
SpaceX(Merlin/Raptor)米国
Merlinはケロシン×液体酸素のガス発生器サイクルで、量産性とコストを最優先した設計。Raptorはメタン×液体酸素の全流量二段燃焼サイクルで、比推力と再使用耐久性を追求している。自社ロケット以外への外販は行っていない、垂直統合型の典型。
Blue Origin(BE-4) 米国
液体酸素×メタンの二段燃焼サイクルエンジン。自社のNew Glennに加えて、ULAのVulcan Centaurにも供給しており、数少ない「エンジン単体を他社に売る」ビジネスモデルを取っている。
Aerojet Rocketdyne(RS-25/RL10) 米国
RS-25はスペースシャトル時代からの液体水素エンジンで、NASA SLSに継承されている。RL10は1963年の初飛行から60年以上にわたり上段用エンジンとして運用され続けており、信頼性を武器にしている老舗。
Rocket Lab(Rutherford) 米国
ターボポンプの代わりに電動モーターとバッテリーで推進剤を送り込む、世界初の電動ポンプ式液体エンジン。小型ロケット向けに構造をシンプル化した点が特徴。
NPO Energomash(RD-171/RD-180) ロシア
旧ソ連時代からの二段燃焼サイクル技術の到達点とされ、比推力・信頼性ともに高水準。RD-180は冷戦後、米国のAtlas Vにも採用された経緯があり、地政学と技術供給が交差した象徴的な事例でもある。
CASC(YF-100など) 中国
中国の国家宇宙開発体制のもとで開発が進み、長征5号など主力ロケットに搭載。近年は二段燃焼サイクルエンジンの実用化で性能を急速に引き上げている。
MHI/JAXA(LE-9) 日本
H3ロケット用のLE-9は、副燃焼室を持たない「エキスパンダーブリードサイクル」を採用しているのが最大の特徴。部品点数が少なくコストを抑えられる一方、燃焼振動が発生しやすいという課題があり、現在も大学・JAXAで研究が続けられている。
日本の「ロケットエンジン」というと、H3のLE-9のように国産ロケット向けの印象が強いが、実際に世界市場でシェアを持っているのは完成品エンジンよりも衛星用スラスタ(推進系)とターボポンプの分野である。
IHIエアロスペースの衛星用二液式スラスタ
IHIエアロスペースは1980年代の1700N級アポジエンジン向け二液式スラスタの納入以来、40年以上にわたって衛星用推進系を手がけており、これまでに納入した二液式スラスタは400基を超える。2001年に開発した450Nスラスタは、米国の衛星メーカーで広く採用されている実績があり、欧米製スラスタに対して価格競争力を持つ点が輸出面での強みとされている。
IHIの静止軌道投入用アポジエンジン
IHIグループが開発する500N級アポジエンジンは、世界最高水準の性能を持つとされ、22Nスラスタとあわせて海外顧客からも高い評価を得ている。これは「日本製ロケットエンジン」が完成機ではなく、コンポーネント単位で世界の衛星サプライチェーンに組み込まれていることを示す好例といえる。
IHIのターボポンプ技術
H-IIA/H-IIB/H3すべての国産基幹ロケットで、液体水素・液体酸素の両ターボポンプをIHIが一貫して開発・製造してきた。ターボポンプはロケットエンジンの「心臓部」とされる最重要コンポーネントであり、極低温流体を扱う高速回転機械技術の蓄積が日本の強みとなっている。
総括
つまり日本メーカーの世界的な立ち位置は、完成エンジンの輸出国というより、①衛星推進系(アポジエンジン・スラスタ)でグローバルな実績を持つサプライヤー、②国産基幹ロケットのターボポンプという最難関コンポーネントを内製できる技術国、という二本立てで理解するのが実態に近い。安全保障貿易管理の制約もあり、完成品ロケットエンジンそのものの海外販売は限定的である点も付け加えておきたい。
ここからは視点を変え、航空機用のジェット燃料(ロケット推進剤とは別の燃料体系)を整理する。
民間旅客機で使われる燃料は、その大半がJET A-1(別名AVTUR)である。原油の常圧蒸留で得られる「灯油留分」をベースとし、水素化処理を経て精製される点は市販の灯油と共通するが、規格・添加剤の管理はより厳格である。
炭化水素の構成
その他の管理項目 硫黄分は炭化水素に不可避的に含まれるが、規格で上限が定められている。析出点(低温でワックス分が析出し始める温度)は高高度飛行での燃料凍結を防ぐため低く抑える必要があり、これがJET A-1の重要な品質規定のひとつになっている。
添加剤 酸化防止剤、金属不活性化剤、静電気防止剤などが規定に基づいて添加される。
なお「ワイドカット系」燃料(JP-4など、灯油留分にナフサ留分を加えたもの)も存在するが、現在の民間航空では実質的にJET A-1がほぼ唯一の選択肢となっている。
ここで注意したいのは、JET A-1は航空機用の規格であり、ロケットにそのまま使われているわけではないという点である。SpaceXのMerlinやULAのAtlas Vなど、ケロシン系推進剤を使う液体ロケットの多くは、RP-1(Rocket Propellant-1)という別規格の燃料を用いる。RP-1はJET A-1と同じ灯油留分から作られる兄弟燃料だが、芳香族炭化水素の含有量や硫黄分がJET A-1よりもさらに厳しく制限されている。これは、再生冷却の冷却通路(燃焼室・ノズル壁の細い流路)で芳香族由来のコーキング(すすやタールの堆積)が起きると、詰まりや冷却不足からエンジンの焼損につながりかねないためである。つまり「ジェット燃料がロケットに転用されている」のではなく、「同じ原料からロケット専用にさらに精製した燃料が使われている」というのが正確な理解になる。
RP-1・JET A-1のいずれも、精製の出発点となる原油の性状が硫黄分や精製コストを大きく左右する。代表的な原油の硫黄含有量を比較すると、米国産WTI(API約39.6、軽質)は硫黄分およそ0.24wt%と「軽質低硫黄(スイート)」の代表格である一方、サウジアラビア産アラビアンライト(中質)は1.8〜2.47wt%、アラビアンヘビーやイラク産バスラヘビーのような重質サワー原油になると2.8〜4.0wt%に達する。硫黄分が多い原油ほど、脱硫装置(HDS)や硫黄回収設備での処理コストがかさむため、低硫黄原油を出発点にできれば、RP-1のような厳格な硫黄規格を満たす燃料をより低コストで精製できる理屈になる。
ただし単純に「米国産=低硫黄、中東産=高硫黄」と一般化するのは正確ではない。米国内でもカナダ産オイルサンド由来のWCS原油は硫黄分3.2〜3.5wt%の重質サワーであり、低硫黄なのはあくまでWTIに代表されるシェール由来の軽質油である。逆に中東産でもUAEのマーバン原油のように、API36〜40超・低硫黄の「軽質スイート」に分類される油種も存在する。したがって硫黄分の優劣は「産地」ではなく「油種(API比重と硫黄含有量の組み合わせ)」で見るのが実態に近く、米国のシェール由来軽質油が近年ジェット燃料・RP-1双方の原料として存在感を増している背景には、この硫黄分の低さと供給量の急拡大という2つの要因が重なっていると整理できる。
液体ロケットエンジンの基本構成は、大きく分けて「推進剤を送り込む系統」と「燃焼・排気する系統」の2つからなる。代表的なガス発生器サイクルを例に、構造を整理する(下図参照)。

① ターボポンプ 燃料(液体水素やケロシンなど)と酸化剤(液体酸素)を、それぞれ専用のポンプで昇圧し、燃焼室へ送り込む。ロケットエンジンの中でも設計難度が最も高いコンポーネントのひとつとされ、極低温流体を扱いながら数万rpmオーダーで安定回転させる必要がある。IHIが日本の基幹ロケット向けに一貫して手がけてきた部品がこれにあたる。
② ガス発生器(またはプリバーナー) ターボポンプを駆動するためのタービンを回すガスを、副燃焼室で発生させる方式。駆動後の排気ガスを機外に排出する方式を「ガス発生器サイクル」、主燃焼室に合流させて再利用する方式を「二段燃焼サイクル」と呼ぶ。二段燃焼サイクルの方が比推力は高いが、開発難度も上がる。日本のLE-9はこの副燃焼室を持たない「エキスパンダーブリードサイクル」を採用しており、部品点数を減らしてコストを抑える設計思想を取っている。
③ インジェクタ 昇圧された燃料と酸化剤を細かい液滴として噴射し、均一に混合させる部品。混合が不均一だと燃焼が不安定になり、燃焼振動(エンジン破壊につながるリスク)の原因となる。
④ 燃焼室 インジェクタで混合された推進剤が燃焼し、高温高圧のガスを生成する空間。内壁は数千度の熱にさらされるため、冷却技術が生死を分ける。
⑤ 再生冷却 燃焼室・ノズルの壁を二重構造にし、その隙間に燃料(または酸化剤)を循環させることで壁を冷やしながら、同時に推進剤自体を予熱する仕組み。冷却に使われた推進剤はその後インジェクタへ戻され、燃焼に使われる。この他、推進剤を燃焼室内壁に沿って噴射し保護膜を作る「フィルム冷却」、燃焼ガスの温度自体を調整する「カーテン冷却」なども併用される。
⑥ スロートとノズル 燃焼室で発生した高温高圧ガスは、断面積が最も絞り込まれた「スロート」を通過する際に音速に達し、その後末広がりの「ノズル」を通過する過程で超音速まで加速される。この膨張加速によって生じる運動量の変化が推力となる。
下記の情報源にアクセスして読んでいくだけで結構ロケットについて勉強になった。そして日本を応援したくなると同時に誇らしく感じた。
過去の記事 第1回 種子島の地理的条件 / 第2回 世界的ロケット発射場 / 第3回 ロケットエンジン / 第4回 日豪印宇宙協定
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