モデルと現実はどこでズレるか—世界24射場でQGISスコアを検証する

モデルと現実はどこでズレるか—世界24射場でQGISスコアを検証する

前回、緯度・発射方位角・海洋開放性を組み合わせたスコアリングモデルをQGIS上に構築し、日本国内での検証では実在の射場(種子島・大樹町・串本)とよく整合する結果を得た。今回はこのモデルを世界24箇所の主要射場に適用し、地理的最適性と現実の選定が一致する場所・しない場所を洗い出す。

地図上の表示で青色エリアがロケット発射地としてもっとも適したエリアで、赤色が不向きなエリアであることを示している。

スコア一覧—全24射場

順位射場特記事項スコア補間
1欧州(仏領ギアナ)クールー低緯度・全方位開放0.999
2日本内之浦宇宙空間観測所固体燃料・科学観測用0.944※補間
3日本種子島宇宙センター大型基幹ロケット唯一の拠点0.944※補間
4オーストラリアボーエン軌道宇宙港Gilmour Space、2025年〜0.934
5ニュージーランドマヒア半島(Rocket Lab)南半球・南東に開放0.929※補間
6中国文昌中国で最も低緯度0.919
7ブラジルアルカンタラ南米・赤道近接0.912※補間
8インドサティッシュ・ダワン(スリハリコタ)東〜南に開放0.907
9米国ケープカナベラル/KSC東向き専用0.904
10韓国羅老宇宙センター半島南端0.876※補間
11米国ボカチカ(Starbase)メキシコ湾岸0.824
12北朝鮮東倉里(西海衛星発射場)西岸・南向き0.773
13米国コディアック(アラスカ)高緯度・南向き専用0.692※補間
14英国サクサヴォード(シェトランド諸島)2023年開港・極軌道特化0.553
15米国ヴァンデンバーグ宇宙軍基地南向き(極軌道)専用0.513
16ロシアヴォストーチヌイバイコヌール依存脱却目的0.494
17ノルウェーアンドヤ北極圏0.463※補間
18スウェーデンエスレンジ北極圏0.404
19イスラエルパルマヒム空軍基地西向き(自転に逆行、唯一の例外)0.382
20中国西昌静止軌道衛星中心0.377
21ロシアプレセツク高緯度・軍事系0.311
22イランセムナーン内陸砂漠・南東向き0.302
23中国酒泉内陸砂漠・有人飛行0.243
24ロシアバイコヌール(カザフスタン租借)内陸・政治的隔離性重視0.209

※補間=0.5度グリッドの解像度限界で細い岬・小島が直接NoData(海)判定されたため、近傍の有効ピクセルから代用した参考値(詳細は後述)。

上位はほぼ理論どおりだ。クールーが1位なのは前回の予想通りで、緯度・東西南北の開放性いずれも満点に近い。種子島・内之浦・ボーエン・マヒア半島・文昌・アルカンタラと、低緯度または全方位開放の岬・小島が並ぶ。

問題は下位だ。世界で最も歴史的に重要な射場—人類初の人工衛星スプートニク、人類初の有人飛行ガガーリンを送り出したバイコヌール—が24箇所中最下位という結果になった。

なぜバイコヌールは地理的に「最悪」なのに歴史を作ったのか

バイコヌールは中央アジア内陸部(カザフスタン、北緯45.9°)にあり、緯度ボーナスは中程度、東・南いずれの方向も広大なユーラシア大陸に阻まれ、海洋開放性はほぼゼロに近い。今回のモデルではこの立地上の不利がそのままスコアに反映され、24箇所中最下位になった。

しかし史実を辿ると、バイコヌールが選ばれた1955年当時のソ連にとって優先されたのは海洋アクセスではなく、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の試験場として敵国の偵察・攻撃から隔離できる内陸の広大な無人地帯であることだった。人工衛星打上げは元々ICBM技術の副産物であり、平和目的の軌道力学最適化という発想自体が、冷戦初期の技術開発の文脈には存在しなかった。中国の酒泉(0.243、23位)・西昌(0.377、20位)、イランのセムナーン(0.302、22位)も同様の内陸立地で、いずれも「海洋開放性より地理的隔離性・国家安全保障を優先した」という共通点を持つ。

つまりこの4射場の低スコアは、モデルの欠陥ではなく、「軌道力学の効率」と「国家安全保障上の隔離性」という、そもそも異なる2つの評価軸が存在することを逆説的に証明している。

パルマヒム—「東オープンネス最重視」設計と正面から矛盾する唯一の例外

19位のイスラエル・パルマヒム空軍基地(スコア0.382)は、このモデルにとって最も居心地の悪いケースだ。イスラエルは地中海に面し東側にも一定の海洋があるにもかかわらず、実際には西向き(地球の自転に逆行する方向)に打ち上げている。理由は単純で、東側にはヨルダン・イラク・イランなど、ロケットの残骸を落下させることが外交上・安全保障上許容できない国々が存在するためだ。西の地中海は無人であり、レンジセーフティの制約が自転ボーナスより優先された。

今回のモデルは東方向の開放性に45%という最大の重みを置いている設計上、この「西向き打上げ」という選択そのものをスコアに反映できていない。西向きの開放性も同時に評価する拡張を行えば、パルマヒムのスコアは大きく上がるはずで、これは次回以降のモデル改良の具体的な宿題になる。

補間値についての注記—種子島・内之浦のスコアの読み方

属性テーブルで種子島・内之浦のスコアが0.944と非常に近い値になっているが、これは前回の日本近海限定・高解像度モデル(種子島0.959、内之浦0.950)とは別の、全球0.5度グリッドモデルでの値であり、かつ両地点とも周辺ピクセルから補間した値(interpolated=true)である点に注意が必要だ。細い岬・小島は0.5度(約55km四方)グリッドでは解像しきれず、直接のピクセル値がNoData(海)になってしまうため、近傍の有効ピクセルで代用している。同様に補間フラグが立っているマヒア半島・アルカンタラ・羅老・コディアック・アンドヤも、ピンポイントの精度より「おおむねこの水準」という参考値として扱うのが正確だ。

まとめ—モデルが説明できる部分とできない部分

24射場を俯瞰すると、上位9射場(0.9以上)はいずれも低緯度または全方位開放という地理条件を満たしており、モデルの想定通りに実在の射場と一致した。一方、下位6射場のうち5つ(バイコヌール・酒泉・西昌・セムナーン・プレセツク)は地理的な劣位を安全保障上の隔離性で相殺した事例であり、残り1つ(パルマヒム)はモデルの評価軸自体が捉えきれていない西向き打上げの特殊事情だった。

つまり、地理的最適性だけで説明できるのは全体の3分の2程度で、残りは「なぜその国はその立地を選んだか」という個別の政治・軍事史を読まないと説明がつかない。これは前々回の「なぜ種子島だったのか」で得た結論—沖縄除外・漁業権交渉という非地理的要因の重要性—と同じ構図が、世界規模でも再現されたことを意味している。


本記事のスコアはQGIS上でPythonにより実装した全球0.5度グリッドモデル(緯度ボーナス30%・東オープンネス45%・南北軌道オープンネス25%の加重合成)に基づく。海岸線データはNatural Earth 50m解像度。interpolated列がtrueの射場は、解像度限界を補うため近傍ピクセルから代用した参考値である旨、本文中で明記した。


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