山と海は繋がっている|衛星データで見る富山湾のクロロフィルa濃度と、白エビを育てる水の道

山と海は繋がっている|衛星データで見る富山湾のクロロフィルa濃度と、白エビを育てる水の道

「恋愛はdeepに」という言葉を聞いて、ふと思った。深く繋がっているのは、人と人だけではない。富山には、標高3,000m級の山々と水深1,000mを超える海が、わずか数十kmの距離に並んでいる。この二つは、本当に「繋がっている」のだろうか。

今回は、衛星データと地理空間データを重ねて、この問いを確かめてみた。

使ったデータ

  • Sentinel-3 OLCI(2026年5月13日観測):海のクロロフィルa濃度(Water CHL NN)
  • Sentinel-2:富山県全域の光学画像
  • 10mメッシュ標高データ:谷の形から水路・河川を抽出
  • 国土数値情報:河川データ(W05)、土地利用細分メッシュ(L03-b)

これらから、性格の異なる2種類の画像を作った。

先に断っておくこと:使えた観測は1日だけだった

クロロフィルaの画像は、2026年5月1日から10月2日までの観測を探した。しかし、雲によるデータ欠損が大きく、解析に耐えたのは5月13日の1日分だけだった。光学センサーである以上、衛星観測は天候に左右される。半年近い期間で使える日が1日という事実が、この手法の限界をよく表している。

したがって、以下は1日分のスナップショットから読み取れる空間パターンの話であり、季節変化や因果関係を示すものではない。

海の「色」と陸の「使われ方」を重ねる

1枚目は、富山湾のクロロフィルa濃度の上に、土地利用と河川を重ねた図だ。土地利用では森林を濃い緑、水田を淡い緑、住宅地をサーモンピンクで示している。

まず目に入るのは、湾の南岸、平野部に面した沿岸域に広がる黄色〜黄緑の帯だ。周囲より値が高い。湾の中央から沖合は青系で低い。

画像の値は常用対数(log10)で、換算すると湾の大部分は1〜3mg/m³程度。黄色の帯はそれより高い領域にあたる。この帯は、住宅地と水田の広がる平野を抜けた河川が、枝分かれしながら海に注ぐ場所の沖合にある。河川が運ぶ栄養塩が植物プランクトンを育てている、という読みは自然だ。

ただし、これは仮説にとどまる。この種のアルゴリズムは、河川が運ぶ懸濁物質や有色溶存有機物の影響を受けやすく、沿岸では実際より高い値が出ることがある。黄色の帯がプランクトンの多さを示すのか、河川水そのものの影響なのかは、この画像だけでは切り分けられない。

一方、森林が海岸まで迫る能登側の沿岸は、帯が薄い。陸の土地利用の違いが、海の色の違いに対応しているようにも見える。

湾中央の赤い領域は、プランクトンではなかった

湾の中央には、値が突出して高い赤い領域が一か所だけ現れた。何点か値を取ると1.29〜1.80。換算すると20〜60mg/m³超に相当する。最初は、5月の春季ブルームではないかと考えた。

しかし、同じ日のトゥルーカラー画像を重ねると、見え方が変わった。北東から南西へ伸びる薄い筋状の雲が、赤い領域と位置・向きともに一致していたのだ。筋に沿って、黄緑の点も並んでいる。水面には緑や茶への変色が見られず、換算値も周囲と桁が違う。

薄い雲は、肉眼ではほとんど気づかないほどでも、大気補正を狂わせてクロロフィルaの値を跳ね上げることがある。品質フラグ(WQSF)は画像出力のため確認できず、断定まではできないが、雲による処理誤差と判断し、プランクトンの大量発生とは扱わない。

衛星データの値は、そのまま信じてはいけない。この赤い領域は、そのことを教えてくれた。

山から海への「水の道」

もう1枚は、Sentinel-2の画像に、10m標高データから抽出した水路を重ねたものだ。

山岳地帯では、無数の細い谷が枝分かれしながら集まり、中央を貫く一本の太い流れになる。それが平野に出ると、扇状地の上で網の目のように広がり、海に注ぐ。

この画像を見ると、水は山から海へ「流れる」というより、山全体が集めた水を、海が受け止めているように見える。山の一滴ずつが谷に集まり、川になり、やがて湾へ入る。

その水は、田を潤し、海へ出る

この水の道は、地図の上の線であるだけでなく、暮らしの水でもある。

先日の記事「新米の季節に問う、コシヒカリ3産地食べ比べ」では、砺波平野の米が庄川の水に育てられていることを書いた。北アルプスの岩盤を通った水が扇状地に伏流水としてしみ込み、平野の田と散居村の暮らしを支えている。

その水は、田を潤したあとも流れ続け、やがて川から湾に入る。陸では米を育てた水が、海ではまた別の食卓を育てているのかもしれない。

富山湾の宝石、白エビ

その海の食卓の代表が、「富山湾の宝石」と呼ばれる白エビだ。主に富山湾で漁獲され、透きとおるような淡いピンク色と、強い甘みで知られる。

白エビは、湾の深い海に棲み、動物プランクトンなどを食べるとされる。そして動物プランクトンは、植物プランクトンを食べて育つ。クロロフィルaの値は、この食物連鎖の一番下、つまり植物プランクトンの量を衛星から見る指標だ。

山から届く水が、湾の一番下の層を育て、その上に白エビのような生き物が成り立つ。もしそうなら、私たちが食卓で味わっている白エビの甘みは、遠く立山連峰から続く水の道の先にあるといえる。

ただし、今回の解析で示せたのは「山から海へ水が流れ、沿岸の海の色が変わる」という空間パターンまでだ。山の水がどれだけ白エビの餌を増やしているのかは、別の調査が必要になる。この点は、あくまで読み解きの方向性として書いておく。

山と海の距離

富山は、水深1,000mを超える海と標高3,000m級の山が近接する、世界的にも珍しい地形だ。川は短く急で、山の水は短い時間で海へ届く。この近さこそが、山の変化が海の色に反映されやすい理由なのかもしれない。

「森は海の恋人」という言葉がある。森からの養分が川を通じて海を育てるという、漁業者の経験から生まれた言葉だ。今回の画像は、この言葉を衛星と地理空間データで確かめようとする試みでもあった。

5月13日というタイミング

観測日は、立山連峰の融雪が進む時期にあたる。雪解け水が大量に流れ込む季節であり、河川水が沿岸に影響を与えやすい条件は揃っている。

ただし、1日分の観測では、融雪水が栄養塩を運び、プランクトンを増やしたと言い切ることはできない。検証には、複数の日付と季節の比較、河川流量や降水量との照合が必要になる。雲の少ない日がもっと得られれば、続きを書きたい。

データを読むときの注意

  • Sentinel-3 OLCIの空間分解能は約300mで、沿岸の細かな構造は捉えきれない。
  • 画像の値はlog10(mg/m³)で、負の値を含む(最小で約-1.26、実濃度で約0.06mg/m³)。
  • 沿岸のクロロフィルa推定値は、河川由来の懸濁物質などの影響で過大になりうる。
  • 湾中央の赤い領域は、薄い雲による処理誤差と判断した。
  • 「栄養塩の供給源」や白エビとの関係の特定には、水質観測データや漁業データとの照合が必要。今回は空間パターンの比較にとどまる。

まとめ

生命は、海から始まったのかもしれない。けれど、私たち人間の食卓を豊かにしているのは、山から海へ流れる水の道だ。山で降った雨や雪は、谷を集めて川になり、平野で米を育て、湾に入って海の最初の命を育てる。

衛星から見えた海の色の違いは、その繋がりの断片にすぎない。それでも、見えない繋がりをデータで可視化し、同時にデータの限界も示す。それが、Blue Forest Journalのやり方だと考えている。


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