- 2026年4月26日
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インド太平洋をつなぐ統合EEZ──海洋連結性の地政学と経済安全保障
地図を眺めれば、そこには国家が引いた「境界線」が無数に走っている。しかし、その境界線の下——数千メー……

2026年9月9日撮影・Sentinel-1 SARデータによる比較分析(前回記事:ペルシャ湾の星々――衛星SARが映し出したホルムズ海峡の真実)

2026年4月29日撮影。暗い海面に無数の輝点――行き場を失ったタンカーと貨物船が散らばっていた
前回記事で、私はこの画像を「星々」と呼んだ。ホルムズ海峡に閉じ込められた船舶がレーダーに反射し、夜空の星座のように輝いていたからだ。
あれから4カ月半。同じ手法で、同じ海域を撮り直した。

2026年9月9日撮影。同じ海域、同じ手法。だが輝点の数は明らかに少ない
結論から言う。星は、消えていた。
これは船舶が減ったことを必ずしも意味しない。だが、公開データと重ね合わせると、その理由がはっきり見えてくる。
前回記事(2026年4月30日公開)の時点では、ホルムズ海峡は「事実上の封鎖」の真っ只中にあった。イラン革命防衛隊が3月2日に封鎖と通航料制度を宣言し、通過船舶数は平時の約3%まで落ち込んでいた。
その後の展開を簡単に振り返る。
つまりこの4カ月半は、「封鎖→停戦→航行再開→再エスカレーション」という一往復を経て、9月時点で再び封鎖に近い状態に戻っている。私が今回撮り直したSAR画像は、まさにこの「振り出しに戻った」瞬間を捉えていたことになる。
6月の停戦合意は、当初は機能しているように見えた。実際、CSIS(米戦略国際問題研究所)の分析によれば、イラン外相が4月17日に再開を発表した直後には、数十隻のタンカーが一斉に海峡脱出を試み、少なくとも13隻が実際に通過に成功したという記録が残っている。もっとも、その大半はすぐに引き返し、湾内に留まったままだったとも報告されている。
しかし停戦は長続きしなかった。6月25日の飛翔体攻撃を皮切りに、7月には米軍によるイランへの連続空爆が行われ、オマーン沖でのタンカー2隻被弾、火災による乗組員退避といった事案が相次いだ。イラン側は革命防衛隊の艦艇による停船措置や、AISを切った「暗船」の存在も観測されるようになったと報告されている。
その後、8月17日にイランが独自に設定していた60日間の停戦期限が正式に失効し、合意なきまま交渉は行き詰まった。そして9月、イラン側が新たな海事規制を発動し、ばら積み貨物船への死者を伴う攻撃、タンカーの拿捕という大きな一線を越える事案が発生した。これが今回の「再封鎖」局面の直接的な引き金だ。
さらに9月10日には、紅海側でもフーシ派がイエメンのモカ港を掌握し、バブ・エル・マンデブ海峡への圧力を強めたと報じられている。ホルムズだけでなく、中東の複数のチョークポイントで同時に緊張が高まっている構図だ。
前回記事の数字を、今回のデータで更新する。
| 時期 | 1日あたり通過船舶数 |
|---|---|
| 2025年(平時) | 約93.7隻 |
| 2026年2月(封鎖直前) | 約109隻 |
| 2026年3月30日〜4月5日 | 平均8.4隻 |
| 2026年4月17日直後 | 数十隻が脱出を試みるも、通過成功は13隻(累計) |
| 2026年6月17日〜 | 停戦合意により航行再開の動き |
| 2026年9月6日 | 6隻(平時基準85隻に対し/IMF PortWatch) |
| 2026年9月11日時点 | 事実上封鎖状態と評価(Straits Live集計) |
原油価格も再び上昇局面にある。前回記事執筆時(4月7日)のBrent原油は1バレル112.95ドルまで急騰していたが、その後いったん落ち着きを見せ、直近では104ドル台で推移している。4月のピークほどではないものの、平時の60ドル台からは依然として大きく乖離した水準だ。市場がすでに「長期化」を織り込みつつある、という見方もできる。
湾内に足止めされている船舶の規模感も押さえておきたい。9月11日時点の集計では、441隻が着桟予定のない状態で洋上に留まっている(港から25km以内にいる船舶を除く)。前回記事で報告した4月時点の約2,190隻という数字とは集計方法が異なるため単純比較はできないが、依然として大量の船舶が身動きを取れずにいる状況自体は変わっていない。
今回、4月と9月のSAR画像を比較するにあたって、率直に苦労した点を共有しておきたい。それ自体が、この種の分析の限界と可能性を示していると思うからだ。
Sentinel-1のデータは、そのままでは「地上基準点(GCP)」という間接的な位置情報しか持っていない。ピクセル座標と実際の緯度経度を結びつける対応表のようなものだ。これを地図上の正しい位置に変換する処理(ジオリファレンス/ワープ)を行わないと、QGISのような GISソフトで正しく重ね合わせることができない。
さらに厄介なのは、隣接する2つの観測シーンをつなぎ合わせる際、それぞれのシーンが独立に処理されるため、ピクセルの解像度がわずかに異なることがある点だ。今回のケースでは、片方が1ピクセルあたり約0.0000989度、もう片方が約0.0000982度と、小数点以下5桁目でわずかに食い違っていた。この程度の差でも、境界部分で数十〜百メートル規模のズレとなって現れ、繋ぎ目に不自然な隙間が生じる。
対処法としては、両シーンを共通の座標グリッドに強制的に合わせ直し、さらに信号のない領域(NoData)を透過扱いにすることで、境界を自然に接続させる必要がある。地味な作業だが、この処理を怠ると「データが本当に欠けているのか、単に処理上のズレなのか」を見誤り、誤った解釈(たとえば「この海域だけ観測されていない」といった誤読)につながりかねない。
SAR画像による定点観測・比較分析は、光学画像のようにそのまま並べれば済むものではなく、このような地味な前処理の積み重ねの上に成立しているということは、記録しておく価値があると思う。
今回の画像をよく見ると、右上の山岳部分(ムサンダム半島)に、まだら状の明暗パターンが目立つ。これはノイズと言うより、SAR観測の宿命的な特性が表れたものである可能性が高い。

SARは斜め方向から電波を照射して地表の反射を測るため、険しい山岳地形では「レイオーバー」「フォーショートニング」と呼ばれる幾何学的な歪みが生じる。レーダー側を向いた斜面は実際より圧縮されて異常に明るく、反対側の斜面は電波が届かず黒く抜ける。今回の明暗パターンも、この地形効果である可能性が考えられる。
ただし、4月と9月の画像を見比べると、大まかな明暗の分布傾向は似ているものの、細部の模様まで一致しているわけではない。地表の水分量(土壌水分)がSARの反射強度に影響することも知られており、この一帯は乾燥地帯とはいえ、降雨や気温変化による地表状態の違いが多少なりとも影響している可能性は否定できない。撮影時の衛星軌道(入射角)がわずかに異なることも、見え方の違いに寄与しているはずだ。
つまり、この「まだら」を単一の原因に断定することは、現時点のデータからは難しい。むしろ重要なのは、SAR画像には地形・水分・観測ジオメトリなど複数の要因が絡み合って現れる特有のクセがあり、見た目だけで単純に「船の有無」を読み取ることには注意が必要だという点だ。
もう一点、比較する上で注意したいのは、今回は4月の画像をシアン系の疑似カラー、9月の画像をグレースケールで表示しており、それぞれ異なるコントラスト設定を使っている点だ。同じ強度の信号でも、配色や強調の仕方によって「目立つ/目立たない」の印象は変わる。SAR画像同士を比較する際は、こうした表示上の違いにも注意が必要になる。

画像左が4月29日撮影のもので右が9月9日撮影のもの。
この2枚は撮影時期以外の条件(座標系、解像度、NoData処理、コントラスト設定)をすべて揃えてあり、記事冒頭の画像よりも厳密な比較になっている。見比べると、左(4月29日)の海域には無数の輝点が散らばっているのに対し、右(9月9日)では同じ海域の輝点が大きく減っていることが、より確からしく確認できる。

もう一つ、今回の作業中に興味深い発見があった。4月29日のデータを検証する過程で、同じ観測データであるにもかかわらず、ESAが配布するCOG(Cloud Optimized GeoTIFF)版画像左と、著者が生データ(GCP付き)画像右から自前でワープ処理した版とで、画像の傾きや見え方に違いが生じたのだ。撮影日・衛星が同じでも、配布形式や処理パイプラインによって最終的な見た目が変わりうる、ということになる。
これに加えて、4月29日と9月9日のデータは、そもそも撮影した衛星(Sentinel-1AとSentinel-1C)自体が異なり、軌道条件も別だ。異なる時期のSAR画像を比較する際は、「いつ撮ったか」だけでなく「どの衛星が」「どの配布形式で」撮影・加工したデータなのかまで踏まえないと、見た目の違いを単純に「現地の変化」と読み違えるリスクがある。
なお本記事の主要な比較(星の増減)については、4月29日・9月9日データの双方を著者が同一の手順(GCPワープ→共通グリッド統一→NoData処理)で再処理した画像を用いており、この点でのバイアスは最小化している。
今回撮影した範囲は、オマーンのムサンダム半島からUAE側のラアス・アル・ハイマ、ドバイ沿岸にかけての、ホルムズ海峡南岸にあたるエリアだ。前回記事の画像がとらえていた海域とおおむね重なる。
4月の画像では、この海域の沖合に無数の輝点――停船中の船舶群が観測されていた。今回の9月の画像では、同じ海域にほとんど輝点が見られない。
もちろんこれは、SAR画像1枚から即座に「船が消えた」と断定できる話ではない。以下のような可能性が考えられる。
いずれにせよ、IMF PortWatchが記録する「1日6隻」という定量データと、SAR画像上で輝点が激減して見えるという定性的な観察が、方向性として一致していることは指摘できる。衛星画像という一次データと、AIS由来の統計という別系統のデータが、独立に同じ結論を示しているという点に、この比較の意味がある。
前回記事で書いた「衛星画像の民主化」という論点は、今回さらに一歩進んだ形で証明されたと思う。誰でも取得できる無料データと、無料で公開されている統計データを重ね合わせるだけで、現地に行くことも、当局の発表を待つこともなく、海峡の「今」を検証できる。
星が消えた海の下で、依然として数百隻の船と、数万人の乗組員が足止めされている。次にこの海峡を撮り直すとき、星は戻っているだろうか。それとも、もっと暗くなっているだろうか。
本記事はSentinel-1 SARデータ(Copernicus Data Space Ecosystem)、IMF PortWatch、Windward AI、CSIS、Al Jazeera等の公開情報をもとに、著者独自のGIS解析(QGIS/GDAL)を加えて作成した。データの性質上、数値は速報値であり今後訂正される可能性がある。
記事には書けない分析の補足と、次回テーマの先行告知をお届けします。
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